映画・ドラマを見る、ということは、「他人の人生を追体験すること」と思う。
「こういう人生があったらいいな。」という憧れに近い追体験もあれば、
「人生ってこうだよな、結局。」という共感に近い追体験もある。
人に勧められて今さらやっと見た「獣になれない私たち」(けもなれ、2022)は、後者のドラマとして、めちゃめちゃ心に響いてきた。
このドラマを一言で言うと、【業の肯定】。
「落語とは、人間の業の肯定である」(=人間とは所詮どうしようもないものなのだ)とは、立川談志の言葉だが、このドラマこそ、まさにその形容がドンピシャではまるドラマだと思った。
このドラマでは、至るシーンで、「大人」が甘くない現実を突きつけてくる。
・お互いの本意がうまく伝わらない、もどかしい人間関係
・「恋」じゃなくて、「愛」って何なのか / 結婚ってどういうことなのか
・辞めたくてもやめられない上司との関係。不正経理を受けざるを得ない現実
それらはすべて、視聴者にずしんと重くのしかかってくるものではなく、
あたかも、それらが自分という人間を美味しくさせてくれるスパイスのように、じわりじわりと心にしみこんでくるのだ。
こういうことって、あるよなあ、、、わかるわかる、と。
しかもこのドラマは、1話から10話まで、驚くほど進まない。
やっと最終話で、現実が動き出す。
それも少しだけ。
登場人物みんな、結局大してうまくいっていないし、なんなら一歩進んで二歩下がったような気分。
でも、人生って、こういうことなんだよなあ、結局。
大人の甘くない現実と、それでも前を向いて生きることの大事さをそれとなく教えてくれる、素晴らしいドラマでした。
何より、そうしたドラマのテーマに、「ビール」がぴったりはまるのだ。
物性としても苦いビールは、まさに「大人の現実の象徴」。ドラマで出てくるビールは、主にクラフトビールなのだが、それらはどれも個性があって、その個性(味)には理由がある。まさに、人間が一人一人違って、それぞれがそれぞれのバックグラウンドを抱えて過ごしている「社会の象徴」。
最後に出てくる熟成ビールは、まさにドラマを通じて“熟成”された「登場人物たちの象徴」。
なんと美しいストーリー。笑
(余談)
昔、ポカリスウェットのイオンウォーターのCMで、「甘くない、引きずらない、もう、青くない。」というコピーがあったけど、それに近いかな。イオンウォーターの甘くない物性と、大人の現実がバチンと合致して、面白いCMだった。
けもなれの登場人物誰もが、全員「業」を抱えていて、理想はあるけれどみんなもがいててなかなかうまくいかない。それぞれがいい感じに全体のピースにはまり、誰一人、無駄なピースがいない。みんな好きだなあ。
最近見た、役所広司の「パーフェクトデイズ」は共感性の極致のような映画だったけど、けもなれも、こういう世界があったらいいなあと心から思わせてくれる、素敵なドラマでした。
(こういうドラマは、無理に続編もなく、個人個人にいい感じの余韻が残って終わるのがまたちょうどいいんだよなあ。)