三男日記

愛知県蒲郡市出身、今東京におります三男です。日常や社会について思ったことを書いていこうと思います。基本、空論・評論です。自分の勉強も兼ねてやってます。

9月論壇時評その④「リスクの社会化」

構造改革とアフガン情勢。

 

この両者の根本に横たわる課題は、“平等”ということではないかと思う。

 

コロナ禍で露呈したのは、日本における格差社会の現実だった

 

コロナ禍で生活水準が低下した人の割合は4人に1人であり、低下した人の割合は年収が低い層の方が高かった。

コロナ「生活水準低下」24%: 日本経済新聞

 

また雇用の落ち込みは、正規社員が19年度と20年度で約1万5千人減少したのに対し、非正規社員は約21万人の減少となるなど、正規と非正規での格差が浮き彫りとなっている。

新型コロナ: 上場企業の非正規21万人減 20年度、キャリア支援重要に: 日本経済新聞

 

そうした状況に対する、菅首相がいう「公助」の限界も併せて露呈した。

 

特例貸付制度は返済義務が生ずるため収入が戻ったら家計に大きな負担になるなど、生活保護一歩手前の層に対する制度が手薄い。またセーフティネットとなるべき生活保護の基準額も18年から20年にかけて1.8%減額されていたり、また資産要件も厳しいなど、機能していない現実もある。

公助の巨大な「穴」、コロナ禍で浮き彫りに 最後の安全網機能せず [自民党総裁選2021]:朝日新聞デジタル

 

 

そうした格差が広がっている中で誕生した岸田体制では、「成長と分配」を掲げている通り、分配を重視した歳出へと改革を進めていかなければならないし、それはある種の構造改革ともいえる。

 

今までのアベノミクスとその延長の菅政権の経済政策では、最低賃金などには取り組まれてきたものの、株価重視の側面も否めず、そうした経済政策からの転換も必要になってくる。

株価重視、生活上向かず 実質賃金低下、年収200万円以下増<安倍政権 緊急検証連載>:東京新聞 TOKYO Web

 

そういう点で「格差」を解決するための構造改革が必要ということになってくるが、まさにそうした構図は、アフガン情勢にも当てはまる。

 

日経は、中東やアフリカでテロがはびこる背景には、成長を実感できていないことがあるのではないかと指摘する。アラブ諸国人間開発指数は世界平均や東アジア太平洋の数値よりも低く、また1人当たりGDPの水準も低く推移している。

同時テロ20年 混沌の世界〈下〉富の偏在、憎悪の温床に: 日本経済新聞

 

そうした富の偏在といえる構造が、中東情勢の不安定さの遠因だとしたとき、求められるのは“表面上のテロ対策”ではなく、世界的な格差対策という構造的な改革なのではないか。

 

その構造的な改革をしていくときに必要なのは、各所の課題を”自分事として共有する”ということだと思うが、そうしたことは、近ごろ日本で話題になっている“リスクの社会化”と近しいのではないだろうか。

 

乙武氏は、日本で話題になった「親ガチャ」に対して、より個人個人に“ガチャ”の責任を押し付けるのではなく、社会全体でリスクを共有し、助け合うことが必要ではないか、と説く。

「“親ガチャ”に外れた」と嘆くみなさんへ。|乙武 洋匡|note

 

貧富の格差においては、まさにそうした”リスク”をしっかりと社会全体で共有して、”平等”ということに取り組んでいくことが、社会全体の幸福のためには重要であるように思える。

 

佐々木俊尚氏も同様のことを述べているが、歴史学者坂野潤治氏の説を引用しながら、昭和の戦前期を現在に重ねて論を立てている。

昭和の貧しい人を救ったのは、太平洋戦争だったという驚くべき現実 佐々木俊尚の未来地図レポート vol.669|佐々木俊尚|note

 

坂野氏は、1936年の二・二六事件の後、反戦を訴えた斎藤隆夫議員の演説、

「近ごろの世相を見まするというと、なんとなくある威力に頼って国民の自由が弾圧されるがごとき傾向を見るのは、国家の将来にとってまことに憂うべきことであります」「われわれの望むものは世界の平和ではなく、その一部であるこの東アジアの平和です。向こうが軍備を拡張すればこっちもまた拡張する、というような勢いで進んでいってしまうと、末はどうなると思いますか。結果は推して知るべしです」

について、

「21世紀初頭の今日の日本国民のなかにも、この二つの引用文に『拍手』を贈るものは決して少なくはないであろう。しかし、反ファッショ、自由、平和はあっても、民政党斎藤隆夫の演説には『平等』ということばは出てこない

と評価している。

 

そうした評価を踏まえて佐々木氏は、

斎藤隆夫はすばらしい反ファッショの人ではありましたが、格差や平等にはあまり言及しない。それどころか、市場原理主義的な強者の論理を振りかざすことさえ合ったようです。1936年の演説では、格差是正のための制度改革を否定して「生存競争の落伍者、政界の失意者、一知半解の学者などがとなえる改造論に耳を傾ける何者もない」とまで言っている。

と述べ、平等政策に対する重要性は昭和戦前時はほとんど理解されていなかったが、ただ、戦争がはじまり国家総動員体制が整えられたことで、結果として貧困政策が重視され、格差解消が進んでいったと指摘している。

 

昭和の例はあくまでも本論からは少しずれるが、要は“リスクの社会化”をしっかり進めていくことがこれからの日本にとって、また世界にとって重要だということだ。

 

政治学者の中島岳志氏は、今回の総裁選挙での候補者を「リスク」と「価値観」の軸で分類している中で、岸田氏は本来“社会化”寄りであると評価されており、時代のニーズとあったリーダーが生まれたような印象を受ける。

こんなに理念が違う河野氏と石破氏はうまくいくのか?総裁選候補を「価値とリスク」で分類 | Business Insider Japan

 

 

10月からは新内閣が始動する。

 

こうした課題も含めやることが山積している中で、どう取り組むべきなのか、外野もしっかり“課題を共有して”考えていく必要があるように思う。