三男日記

愛知県蒲郡市出身、今東京におります三男です。日常や社会について思ったことを書いていこうと思います。基本、空論・評論です。自分の勉強も兼ねてやってます。

9月論壇時評その③「アメリカ帝国の終わり。」

(④まであります)

 

日本が総裁選挙で大騒ぎしている間も、世界はどんどん前に進もうとしている。

 

9月の半ばには、オーストラリアが米英との新しい“同盟”といえる「AUKUS」を発表した。根幹にあるのは、原子力潜水艦の技術をオーストラリアに供与するということだった。

米国が中国包囲網で本気の一歩:日経ビジネス電子版

 

これによって、オーストラリアはフランスと結んでいた潜水艦の建造契約をキャンセルする形となり、フランスとしてはオーストラリアに裏切られた形となり、一時は大使を召還する騒ぎとなった。

AUKUS、怒り収まらぬ仏 国連総会で「ふて寝外交」展開:朝日新聞デジタル

 

逆に言えば、オーストラリアにとって太平洋地域の安全保障は厳しい環境にあることを意味するわけで、AUKUSができたことにより、米英もその認識を共有していることが世界に向けて確認された。

 

まさに日本も、親中派と言われた二階幹事長から、中国に厳しい態度をとる甘利新幹事長が誕生したことは、中国をめぐる政治環境の大きなパラダイムシフトを予期させる。

https://www.newsweekjapan.jp/watase/2021/10/post-27.php

 

対中政策に限らず、安全保障政策全体の見直しが必要な中で、日経によると韓国の国防予算は日本に並ぶ勢いであり、

過度な軍拡に走るべきというわけではないものの、日本も的確な現状分析に立脚した安全保障政策が必須になってきていると思う。

韓国国防予算、日本に並ぶ: 日本経済新聞

 

ただ、日本の安全保障政策の欠点を露呈したのが、まさに直近のアフガン撤退の時の邦人救出だった。

 

自衛隊の出動が他国に比べて大きく遅れてしまった

日本の「アフガン退避作戦」こんなにも遅れた理由 | アジア諸国 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

 

国際政治学者の北岡伸一氏は、日本の現状の自衛隊出動にあたる法解釈について異論を唱える。

「派兵と派遣は違う。民生支援に関係した邦人らの救出は明らかに派遣だ。今の法律では安全が確保できないと自衛隊も救出できないと言うが、人の安全が脅かされているから避難が必要。法律の立て付けも解釈もおかしい」

 

アフガン避難なぜ遅れた: 日本経済新聞

 

 

日本がアフガン撤退という歴史的な事象において構造的欠陥を露呈したのと同様、アメリカもアフガンを前に欠陥を露呈しつつある。

 

国内的には、軍関係者が公聴会でアフガン駐留を進言していたとの事実を公表して、バイデン政権を揺るがす事態になっている。

米軍幹部「アフガン駐留の継続を進言」 議会で証言、撤退には理解も [アフガニスタン情勢]:朝日新聞デジタル

 

ただ、事の本質はもっと深刻だ。

 

コラムニストのミッシェル・ゴールドバーグ氏は、アメリカの駐留がそもそも真っ当ではなく、アフガンでの活動はひどいものであったと指摘する。

(コラムニストの眼)アフガン戦争 真っ当な撤退も駐留もなかった ミッシェル・ゴールドバーグ:朝日新聞デジタル

 

特別監察官事務所の報告によれば、アメリカは

「必要な人たちに支援を届けず、自分たちの富と権力のために流用するような有力者に権限を与えることが多かった。地方の状態への理解不足から紛争を緩和させるはずの活動が事態を悪化させ、反政府勢力に資金を提供することさえあった」

という。

 

またそうした実態の背景には、アメリカの

市民がいかに悲惨な状況にあるかではなく、だれが政権を握るかだけが重要であるという議論

があったと厳しい評価をしている。

 

 

そうしたアメリカの市民軽視の姿勢が露呈したのが、テロへの報復での誤爆だったと思う。

米軍 アフガニスタン空爆は“悲劇的な誤り” 誤爆認め謝罪 | アフガニスタン | NHKニュース

 

当初アメリカ軍は認めていなかったが、ついに市民への誤爆を認めた。アメリカ軍に犠牲を出さぬよう無人機での爆撃を取り入れているがゆえに、市民の犠牲が増えてしまっている。

 

朝日新聞日曜に想うでは、そうした無人機爆撃の現状について、「リアリティなき戦争の果てに」と題して、無人機でアメリカ国内からアフガンを爆撃するというシステムによって1万キロ離れた先での爆撃が常態化し、戦場の実相を見失っているのではないか、と指摘する。

(日曜に想う)リアリティーなき戦争の果てに 論説委員・沢村亙:朝日新聞デジタル

 

また、アフガン駐留は、アメリカはテロとの戦いをしているつもりが、実際は内戦に巻き込まれ、むしろ状況を悪化させていただけなのではないか、とも指摘されている。

現地の女性たちが20年間苦しんできたことは、タリバンによる女性迫害ではなく、米軍とタリバンの戦闘に巻き込まれて、子供たちが死ぬことの方が深刻だったとの意見もある。

「なぜ、何のための戦争か」 アフガンで悩んだ米兵が見た敗北の景色 [アフガニスタン情勢]:朝日新聞デジタル

 

もちろん、タリバンによる統治の悲惨さもあったとは思うが、アメリカ軍がテロとの戦いとして介入したことが必ずしも正しかったとは限らないということだと思う。

【閲覧注意】1996年〜2001年までのタリバンによる迫害|koichi_kodama|note

 

 

というアメリカの犯した過ちを、コラムニストのロスドゥザット氏は、ローマ帝国の歴史と比較しつつ、アメリカという帝国がアフガンという“辺境”(本国から見てという意味)での敗北ととらえている。

 

ローマ帝国の辺境で起きたパルティアやゲルマンへの敗北とアメリカの敗北を重ね、そうした辺境での敗北が帝国の中核への影響をもたらしかねないと警鐘を鳴らす。

帝国の中核とは、1945年以来続けてきたアメリカ体制であり、ドイツや日本などが組み込まれてきた体制が、アメリカの敗北によって変質しかねないと指摘する。

(例えばドイツとロシアが組んだり、日本が再軍備したり、または中国が台湾に侵攻したりなど。)

(コラムニストの眼)アフガンでの失敗 ついえた「帝国」の幻想 ロス・ドゥザット:朝日新聞デジタル

 

アメリカの体制が崩れつつある一方で中国は習近平に権力を集中し、”第二の文革ともいわれる独裁体制を強めつつあることは脅威であるといえる。

中国、国家統制強まる よぎる「文革」の記憶: 日本経済新聞

 

米中に挟まれた日本の安全保障環境の厳しさが次第に増していっているのが現状であり、アメリカ体制に組み込まれてきた日本が、これからどう立ち振る舞っていくのか、タブーなき議論を進めていくことが重要になってくる。