三男日記

愛知県蒲郡市出身、今東京におります三男です。日常や社会について思ったことを書いていこうと思います。基本、空論・評論です。自分の勉強も兼ねてやってます。

2021年に印象に残った本

2021年に読んだ本を記録する(あんまり何を読んだか覚えていないんですが、、、)ついでに、

印象に残った本を3つ見てみたいと思います。

 

・正欲(朝井リョウ

・起業の天才!江副浩正(大西康之)

坂の上の雲司馬遼太郎

の3冊です。

 

【正欲】

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テーマとして「正しいとは何か?」「多様性とは何か?」という問いが深く突きつけられる本。普段自分が「正しい」と思っていること、また多様な考えを認めていこうといわれるときの「多様な考え」ということの“狭さ”を痛感した。

 

印象に残っているのは、この一文。

多様性の時代。自分に正直に生きよう。そう言えるのは、本当の自分を明かしたところで、排除されない人たちだけだ。

 

設定としても面白く、世の中的には、好きな子がいて、彼氏と一緒に痛いものだと思われている20代の女性や、人間にはそこに収まるべき通常のルートが存在すると思っている検事の父親とそのルートから外れようとする息子、またイケメンとして一目置かれつつも、周囲の押し付けもあって本当の自分の欲求を言い出せない男子大学生など、登場人物それぞれがキャラが濃くて興味深い。

 

また、ストーリーからは離れるが、朝井リョウの日常への洞察も面白く、

スマホの予測変換に対しては、

「一文字入力すると、予測変換の候補たちがすかさず手を挙げてくる。この、ユーザーの癖を記憶していることに胸を張っている感じが、いつでも腹立たしい。」

といった皮肉があったり。

またこういった表現もある。

「夏月の全身には、最も熱い部分と最も冷たい部分が共存していた。脳の中の沸騰している部分からはどんどん言葉があふれてくるけれど、それを瞬間冷凍させるくらい、どんな言葉で説明したところで無駄だ、という巨大な諦めがそのすぐ傍にある。」

 

といったような、切り取りの一部一部も面白く、読み進めるのが刺激的な小説だった。

 

【起業の天才!江副浩正

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やはり江副浩正の本はめちゃくちゃ面白い。ボリューミーなのに、江副浩正の刺激的な挑戦を追体験しているかのような感覚を味わえる。

 

情報冊子を通して採用市場の常識や不動産広告の利権をぶち壊し、さらにGoogleマップに近いことも構想し、また新型のスーパーコンピュータをアメリカから輸入するのを採用経費だと言い切る発想など、全てが刺激的だった。

 

3年前にもう一冊の江副浩正も読んだのだが、

 

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2冊の本に共通しているのが、

あらゆる領域で新しいアイデアでビジネスを興し、先を読んでいたチャレンジャーだった江副がいつの間にかエスタブリッシュメント側に回ってしまうという変化(変化以後の江副は江副2号と表現される)

が描かれていることだ。

 

既得権に嫌われる存在だった江副が、いつの間にか既得権側の存在になってしまっていたことが、リクルート事件につながってしまったし、最終的にリクルートから江副が“追放”されることになってしまった。

 

「起業の天才」の本の最後は、江副が思い入れをもって携わったホテル安比グランドに今もある顕彰碑が、人目につかずそっとたたずんでいる寂しい描写で終わっている。

 

一方で「江副浩正」の本では、リクルート事件の裁判において、江副が取り組んだスカラシップ事業の奨学生を中心に大量の上申書が集まったことが描かれている。江副によって大きく人生を前に進められた人がたくさんいることを物語る。

 

本を読み進めながら江副浩正の人生を振り返っている間に、時代の変化もすんなりと頭に入ってくるなと思っていたら、その理由を言い当てている文章が「江副浩正」に引用されていた。

 

江副さんは、すぐれたジャーナリストだとも言えますね。

 

なるほど、江副のすごさは時代の波を読み、それをうまく掴んで形にする天才だったことにあるのだな、、、と思った。

 

 

坂の上の雲

 

言わずもがなの本を初めて読んだ。めちゃくちゃ面白かった。

 

個々の人物の描写が丁寧に描かれているのと同時に、時代の構造的な背景が描かれ、

薩長藩閥国家」と「地方の弱小藩」(松山藩など)、

大将の器の「薩摩人」と謀術に優れた「長州人」、

国民国家を完成させた「日本」と専制を敷いた「ロシア」、

軍事だけではなく国家の存亡をかけて戦った軍人の「大山巌児玉源太郎」と軍事官僚として育った「下の世代」

といったような、対立軸をうまく使って歴史を単なる偶然ではなく必然として描き出されているのが面白かった。

 

歴史の本質を紡ぎだす文章も散りばめられており、

帝国主義外交にとっての外交上の言語はつねに魔法のようなものであり、真実は武力しかない」

 

「すぐれて戦略戦術というものはいわば算術程度のもので、素人が十分に理解できるような簡明さをもっている」

 

「旅順という地名は、単に地名や言葉というものを超えて明治日本の存亡にかかわる運命的な語感と内容を持つようになった」

 

「歴史というものは、歴史そのものが一個のジャーナリズムである側面を持っている。義経義経記をもち、楠木正成太平記をもち、豊臣秀吉太閤記をもつことによって後世の人々の口に膾炙した」

 

「名将ということの絶対の理由は、才能や統率能力以上に彼が敵よりも幸運に恵まれることであった。悲運の名将というのは論理的にありえない表現」

など、印象に深く残っている。

 

また、「本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」の秋山真之の文言に、深い意味が込められていたことは知らなかった。。。

 

ということで、めちゃくちゃ面白かった。坂の上の雲

やっぱり、旅順攻略のシーンは、手に汗握る展開だった。。。