かの有名な「銃・病原菌・鉄」上下巻を読んだので、内容を拙いながらまとめようと思う。
筆者ジャレドダイヤモンドは、そうした当たり前の問いに答えることから探究を始めており、その解明のプロセスを著したのが本書である。
結論を先取りすれば、
ヨーロッパのOSが優れていたから、
である。
人間の生物としてのOSではなく、
あくまで所与として与えられた地理的要件のことである。
なぜなら、生物学的に言えば、アフリカの遺伝子が伝播した可能性を示唆しており、あくまでヨーロッパの人が、アフリカなどと比べて人として優れていたわけではないとしている。
さて、OSが優れている理由を見ていくうえで、大きく分けて、
発生と伝播の2つの観点に分かれる。
発生の点では、
ユーラシア大陸では、
環境として栽培化しやすい農作物の種が豊富であり、家畜化しやすかった動物が多く生息していたという点が大きく影響し、
狩猟採集社会から農耕社会への移行を促し、
結果として人工稠密社会に至ったという。
農耕社会と人口増加は、どちらかがどちらかの因果で結ばれているわけではなく、互いに互いを促し合う相互触媒の関係であると指摘する。
ちなみに、タイトルの一部である、病原菌という点であるが、
よく聞くのは、
アメリカ大陸にヨーロッパ人がウイルスを持ち込んで、先住民を駆逐した、という話である。
なぜ、ヨーロッパの病原菌が強かったのか?
アメリカ大陸のウイルスかヨーロッパに入って感染症拡大、ということにはならなかった。
そこには、家畜という媒介者がいた。ヨーロッパでは家畜が持ったウイルスが人にうつっていく過程で、ウイルスが次第に強いものになっていった。そのため、家畜が少なく、人間だけの状態で進化してきた新大陸のウイルスには、ヨーロッパ人は負けなかった。
伝播という点でいうと、
アメリカ大陸、アフリカ大陸と比べて大陸として、ユーラシア大陸は横に長かった点が、ユーラシア大陸にとって幸いだった。
横に長いということは、緯度が変わらないことを意味する。
作物の伝播のうえで、緯度は重要な観点である。
なぜなら生育環境を決定づける温度や降水量は緯度に左右されるからである。
ユーラシア大陸はその点、緯度が変わらず、農作物が伝播していくうえで、大きなアドバンテージがあった。
というように、作物が伝播しやすかった環境が、ユーラシア大陸の技術的な発展を可能にしたと考えられる。
発生と伝播、という2つの観点から、ユーラシア大陸がなぜ有利だったか?ということを見ていったが、
そのうえで、
ではなぜ覇権を握ったのが中国ではなくヨーロッパだったか、という問いが生まれる。
中国とヨーロッパの違いとして、国家体制の違いが挙げられている。
中国は歴史上、一つの皇帝によって統一されていたが、ヨーロッパはローマ帝国以来統一されることなく、常にバラバラであった。
ヨーロッパでは、各国が群雄割拠して新しい技術を仕入れ、切磋琢磨していたなかで、
中国は二つの大河を基に主に平地で結ばれ、統一がされやすかったために一つの王朝が全てを統治することができた。
王朝は、ときには開化し、時には鎖国した。
その代表例が、海禁令である。
明の鄭和以降、中国はトップダウンで外に閉ざしてしまい、一切新しい技術を得る機会がなかったため、発展がそこでストップしてしまった。
一方でヨーロッパは、地形も激しく、中国のようにダイナミックに縦横断する大河も存在しなかったため、なかなか統一されることがなかったことが逆にメリットとなり、
一つの国が閉じたとしても他の国は開いており、また交易も避けられないなかで、互いに切磋琢磨することで技術革新も進んだ。
その差が、中国とヨーロッパの違いを生じせしめ、最終的に、ヨーロッパと中国は、アヘン戦争以降、帝国と植民地という上下関係で結ばれることとなってしまった。
というのが、銃・病原菌・鉄の大まかなストーリーである。
人類がいかにここまできたのか?ということをわずか2冊で解明してしまう筆者のストーリー構成には脱帽した。
これほどの話でありつつも、出発点はあくまで身近な疑問から始まっている。
筆者がニューギニアに行って現地の人間から聞いた、
「あなた方白人は、たくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるものがほとんどない。それはなぜだろうか?」という問いである。
筆者は、歴史学者ではなく、進化生物学者であり、進化の観点から歴史を見た時ダイナミックな結論が出うるということで、非常に興味深いと感じた。
世界を見ていくうえで、また情勢を把握するうえで、
それぞれにいわば見えない条件として備わっている「風向き」を見ることの重要性を感じた。
面白い本でした。